2014年10月1日水曜日

小豆が繋ぐ日本人とイタリア人の物語



小豆が繋ぐ日本人とイタリア人の物語。

実は小豆、イタリア人からすると「おかずで食べる豆を甘く煮るなんて…」。と否定的な存在でもありました。それが今、少しずつですが「アンコ好き」というイタリア人が増えつつあるそうです。今回の話は、決して「食」ではありませんが、「小豆」がかたくなだったイタリア人の心を甘く優しく溶かしてくれたお話です。



「イタリア人は日本に来ると仕事がある」…、(他の外国人もそうかもしれませんが)と思っていて、余裕のある人たちは、そのビジネスの世界に自分も加わりたいと、日本にチャンスを作りにやってくる人も少なくありません。しかし日本のビジネス、いやいや、そんなに甘くはありませんよね。日本に住んでいる私たちならよく分かっている事…。

ある時、あるイタリア人が日本に売り込もうと、通訳の日本人女性を連れて、鼻息荒く、やってきました。彼は自分のやり方に固執し、全くお客さんの興味の無い話ばかりして、あげくにはできもしない事を「できる、できる」と言いました。責任感のある彼女は、それをたしなめようと努力をしましたが、彼はいつも「自分がボスだ、自分のいうとおりにすればいい」という態度を決して変えることはありませんでした。

彼女も最初は我慢していましたが、その我慢も限界に達して、ついにケンカになってしまいました。彼女は「彼を決して助けることはもうないだろう」と私に言いました。そしてその後も何度も小さな諍いを繰り返し、関係はますます冷えていきました。

そんな気まずい中、数日が過ぎ、そして最後の商談の日。彼女はイタリアに帰ったら、もう彼とは付き合わないと決めていました。でも…

その商談の帰り道、彼女は、彼の行動に傷つきながらも、羊羹で有名な「虎屋」の前を通り過ぎる時、彼をお茶に誘ってあげました。なぜなら、このイタリア人は珍しく「アンコ」が大好きだったのです。彼女はそれを良く知っていました。

彼女は冷たいお汁粉を、彼は温かいお汁粉。彼女は「ここの小豆が美味しくて、日本でも有名なんだよ」と、教えてあげると、彼は「美味しい、美味しい」と嬉しそうに食べ始めました。そして突然、「キエード・スクーザ(ごめんなさい)」と、彼は謝罪の言葉を彼女に伝えました。実はその前から、彼女を傷つけたことを痛感し、さらに彼女の努力と能力が無いと、この仕事は決してうまくいかないことを彼は理解しはじめていたのです。そしていつ彼女に謝ろうかと、タイミングを探していましたが、なかなかそのチャンスには恵まれなかったということでした。彼はイタリアで、幼い頃から何不自由無く今まで過ごして来て、自分が一番素晴らしいという教育を受けて来ました。このイタリア人は性格的にはもちろん、人に謝るということを知りませんでした。だって自分がいつも一番正しいのですから…。そんな彼が溢れ出すように、謝罪をはじめました。自分が何も準備ができていなかったこと、それによって迷惑をいっぱいかけたこと、彼女の助けがなければ、何もうまくいくことは無かったこと、さらには自分の無力さを、最後の方には声を詰まらせながら語りました。彼女も心からの謝罪に、彼との絶交をとりやめ、彼を許すことにしました。日本の甘い小豆がふたりの心を溶かし、優しく、壊れかけた友情を直してくれたのです。



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